専門医からのメッセージ Vol.5

大きな前立腺肥大のある患者さんに向く
レーザーを使用した手術は?

聖路加国際病院 泌尿器科
医長
遠藤 文康先生

より体への負担が少ないレーザー手術

このサイトでも紹介されている通り、前立腺肥大症の治療には、お薬による治療と手術による治療に大別されます。手術は、お薬での治療が十分に効果を得られなくなってきた場合、肥大した前立腺がかなり大きい場合、出血や感染が起こっている場合などに検討されます。

手術には開腹手術と内視鏡手術がありますが、現在は内視鏡手術がほとんどです。さらに内視鏡手術は、TURP(電気メスによる手術)とレーザーを使った、より低侵襲(体への負担が少ない)な手術に分別されます。

いずれも保険が適用されますので、安心して手術を受けていただきたいと思います。

レーザーによる手術で現在主流となっている、「HoLEP(ホーレップ)」(ホルミウムレーザー前立腺核出術=holmium laser enucleation of the prostate)と「PVP」(532nmレーザー光選択的前立腺蒸散術=photoselective vaporization of the prostate、当サイトの専門医メッセージVol.4で詳述)のうち、今回は「HoLEP」についてお話しします。

「HoLEP」の歴史とその特性について

写真:遠藤 文康先生

1990年代の終わり頃、ホルミウムレーザーという種類のレーザーを使って、前立腺を剥がす、という方法が登場しました。この方法はニュージーランドのギリング先生によって発表されましたが、もともとは日本の平岡保紀先生が剥離子という機械を使って行っていた手術にインスパイア(影響を受けた)されたものだ、といっておられます。

そのようなバックグラウンドもあって日本でも2000年頃から始まり、少し前のデータになりますが、手術のシェアでは30%以上と国内ではメジャーな術式となっています。

ホルミウムレーザーは水に吸収される特性があり、術野に水を満たしながら行う前立腺肥大症手術ではレーザーを当てる距離で出力調整ができ、万一間違った場所に当ててしまっても、そのエネルギーはすぐに水に吸収されるため、他の臓器を痛めることがありません。

さらにレーザーを近づけて当てれば非常に強い止血効果が得られ、比較的出血の少ない手術を行うことが可能です。この手術を行う医師の立場からは、「HoLEP」は使いやすく安全であるといえますが、熟練を要する手術、ともいわれており、ラーニングカーブ(術者の成長曲線)は比較的長いとされています。

患者さんが医療機関を選択される場合は、症例数が一つの目安になるかと思います。

「HoLEP」は“くり抜く”手術

「HoLEP」は、前立腺内部の肥大した構造の一部(腺腫とも呼びます)をくり抜く、“核出”という方法です。レーザーによってくり抜いた腺腫を一旦膀胱内に移動させ、モーセレーターという機器で細かく砕いた後に吸引して体の外へと排出します。

くり抜くためには、内視鏡を尿道に入れた後、まず尿道の粘膜を切って尿道の外側に出なければなりません。術者にとっては完全には見えない部分に入り込んでいくことになりますので、解剖学(人体のつくりや形態)的な知識をもって行わないと、思わぬ出血や取ってはいけない部分まで取り過ぎたり、合併症が起こったりといったトラブルにもなりかねません。

逆にいうと、解剖学に沿った手術であり、解剖を正しく知っている術者にとっては、どのような患者さんでも同じように出来る、熟練すれば難しくない再現性の高い手術といえるのです。

「HoLEP」のメリットと注意点

最大のメリットは、再発と再手術率が非常に少ないこと。上手にくり抜くことで、肥大した前立腺を残さず完全に摘除できるからです。また、ほとんどの患者さんがお薬を飲まなくても済むようになります。

また、取った組織を回収できるので、がんの有無を調べることができます。TURP(電気メスによる手術)に比べ、出血が少ないのも良いところです。

さらなる特長は、Size independent gold standardとも呼ばれる、前立腺の大きさに制限のない手術だということ。実際に当院では400~500グラムにもおよぶ国内最大級の肥大症患者さんを、これまでの治療経験と工夫で開腹することなく、この「HoLEP」で手術を行っています。

一方、注意点としては射精障害が挙げられます。前立腺を完全に取るので、射精機能を残すことが難しくなっています(但し、近年は射精機能を残す手術も試みられています)。加えて、抗凝固剤を服用している患者さんも注意が必要です。PVP(蒸散術)に比べると、止血のコントロールが難しいため、抗凝固剤を飲んでおられる患者さん、あるいは射精機能を残したい患者さんは、主治医とよく相談していただきたいと思います。

「HoLEP」の入院から退院後まで

海外では1泊入院や日帰り手術なども行われていますが、日本では3泊以上の入院をする場合が多いでしょう。当院では通常前日に入院していただき、翌日手術、術後2日目に尿道の保護と止血のために留置したカテーテルを抜き、きちんと排尿できることを確認してから退院となりますので、4泊5日になります。

排尿に関しては、カテーテルを抜いた直後から勢いよく排尿できる患者さんがほとんどです。しかしながら頻尿の症状はすぐには治らず、ある程度時間が経ってから改善する方もいます。また、軽度の血尿は2~4週間ほど続き、患者さんによってはもう少し長いこともあります。少量の尿漏れや尿道からの出血で、吸水パッドが必要になることもありますが、多くは一過性の症状です。術後の痛みについては、あまりないという印象です。

当院の場合、退院後はまず1ヵ月目に外来に来ていただき、病理検査の結果(がんの有無)をお伝えし、排尿状況や尿道狭窄などの合併症がないかどうかを確認します。3か月目にも来院いただき、排尿状況の確認と血液検査を行いPSA(prostate-specific antigen(前立腺特異抗原))の値が低下していることを確認します。その後も定期的にフォローし、再発などをチェックしていきます。お薬については、前述の通り手術後、ほぼ必要なくなります。

手術を検討されている患者さんへのメッセージ
「主治医の話に納得できるかどうかがポイント」

「HoLEP」は、
・巨大な前立腺肥大がある
・がんの疑いがある
・比較的若い方(再発が少ないので長期間で再手術する確率が少ないため)
といった患者さんには、この手術が適しているといえるでしょう。しかし、前述したように射精機能が失われることが多いので、この点は考慮が必要です。

これまでたくさんの「HoLEP」による手術を経験していますが、特にリスクの高い巨大な肥大症や抗凝固剤が中止できないような重篤な心臓の合併症をお持ちの高齢の患者さんを安全に手術できた時には、自分自身この治療を行ってきたことに対し誇りを感じます。

これまで多数の新しい低侵襲手術が導入されてきましたが、実際に残るものは少なく、よいもの以外は淘汰されていくと感じています。その中でHoLEPは標準治療の一角を占めるようになっており、安心しておすすめできるといえます。私の行っている「anteroposterior dissection(順行性剥離)HoLEP」も定型的な術式の一つとなっておりますが、さらなる合併症低下に向け研鑽を続けております。

患者さんやご家族がこの手術を検討される際の病院・医師の選択ですが、ある程度症例数が多い医療機関ということは重要なポイントです。そして担当の医師と話をして、説明に納得できる先生にお任せするのがよいと思います。

写真:遠藤 文康先生

遠藤 文康先生略歴

筑波大学医学部卒業。筑波大学病院研修医。2000~2002年、DAAD(ドイツ学術交流会)奨学生としてドイツ・ギーセン大学(Justus-Liebig Univ. )留学。筑波メディカルセンター病院泌尿器科、筑波学園病院泌尿器科を経て、2006年より現職。

 

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