専門医からのメッセージ Vol.1

前立腺肥大症は
珍しい病気ではありません

独立行政法人国立病院機構京都医療センター
診療部長・泌尿器科科長
奥野 博先生

55歳以上の男性の5人に1人が前立腺肥大症
症状を感じていたら、放置しないで医療機関へ

おしっこの出が悪い、トイレが近くて我慢できない時がある、など、おしっこについての困り事を「トシのせい」と思っていませんか?

これはもしかしたら、「前立腺肥大症」という病気かもしれません。前立腺肥大症は、潜在患者さんが400万人を超えるといわれ、55歳以上の男性の5人に1人が前立腺肥大症と推定されています*1。しかしながら、実際に治療を受けている方は47万人ほど*2、患者さんの多くが受診していないことが考えられます。

「トシのせい」と思い、不快な症状があってもつい我慢してしまう…。しかしながら、前立腺肥大症は進行性の病気です。長年放置してしまうと、肥大が進むことによって膀胱に残る尿が増え、常に膀胱が緊張した状態になり、膀胱が硬くなるなどの二次的変化を起こします。その結果、腎機能障害や、ひいては最悪のケースでは人工透析が必要になってしまう場合もあります。もちろん、適切な時期に治療すれば、元の状態に戻すことができます。

近年の前立腺肥大症治療は、お薬・手術ともに飛躍的な進歩を遂げ、効果の高いお薬が出ていますし、手術も開腹手術はほとんどなく、体への負担が少ないものになっています。症状を感じておられる方は、ぜひ年齢のせいにせず、放っておかず、医療機関で診断・治療を受けてください。多くの場合、快適な生活を取り戻していただけると思います。

*1大園誠一郎ほか:PROGRESS IN MEDICINE 28(6):1419-1423, 2008
*2厚生労働省「平成29年患者調査の概況」

大きくなった前立腺が尿道を圧迫して
おしっこが出にくい、などの症状がある病気 

前立腺肥大症とは、「男性の膀胱の出口にある前立腺の良性の過形成(肥大)による下部尿路機能障害を呈する疾患」と定義されています。「前立腺の腫大」と「膀胱出口部の閉塞」の2つが原因となる疾患で、がんではありません。下部尿路とは、膀胱から尿道までを指します。もう少し噛み砕いていいますと、「大きくなった前立腺が尿道を圧迫して、おしっこが出にくい、などの症状がある病気」ということになります。

40歳以上の中高年男性にみられ、加齢とともに増加します。すなわち、「加齢」が一番のリスクファクター(危険因子) なのです。その他のリスクファクターは、肥満、高血圧、高血糖、脂質異常症、メタボリック症候群、性機能障害などで、さらには遺伝的要因もあります。父親に前立腺肥大症の手術既往があると3.5倍、兄弟に前立腺肥大症の手術既往があると6.1倍、一卵性双生児は二卵性双生児の3倍というデータもあり、遺伝的影響が推測されていますが、具体的な原因遺伝子はわかっていません。

写真:奥野 博先生

こんな症状はありませんか?

前立腺肥大症の症状には、「尿を貯めることに関わる症状」「尿を出す時の症状」「尿を出した後の症状」の3種類があります。

  • 尿を貯めることに関わる症状
    • 昼間頻尿:日中、トイレが近い
    • 夜間頻尿:夜、トイレに行くために起きる
    • 尿意切迫感:突然、我慢が難しい強い尿意を感じる
    • 切迫性尿失禁:トイレまで間に合わず、尿が漏れてしまう
  • 尿を出す時の症状
    • 尿線低下:尿の勢いが弱い
    • 尿線分割・尿線散乱:尿線が排尿中に分割・散乱する
    • 尿線途絶:排尿が途中で止まる
    • 排尿遅延:排尿準備ができてから排尿開始までに時間がかかる
  • 尿を出す時の症状
    • 尿線低下:尿の勢いが弱い
    • 尿線分割・尿線散乱:尿線が排尿中に分割・散乱する
    • 尿線途絶:排尿が途中で止まる
    • 排尿遅延:排尿準備ができてから排尿開始までに時間がかかる
    • 腹圧排尿:排尿開始時に力む(いきむ)
    • 終末滴下:排尿の終了が延長し、尿が滴下する程度まで尿量が低下する
    • 尿閉:尿がまったくまたはほとんど出なくなる
  • 尿を出した後の症状
    • 残尿感:排尿後にも尿が残った感じ
    • 排尿後尿滴下:排尿直後に不随意的に尿が出てしまう(便器から離れた後)

夜間頻尿には“要注意”

以上に挙げた症状の中でも、夜間頻尿には特に注意が必要です。夜間頻尿の定義としては、「夜間に1回以上、トイレに行くために起きる。かつそれに困っておられる」という方になります。熟睡できずに翌日疲れが残ったり、さらには夜中ですので、暗い中でトイレとの往復の途中で転倒やひいては骨折してしまうこともあり、大変危険です。「夜間に3回以上トイレに行く人は、そうでない人に比べて生存率が低くなる」との研究報告もあります。

自覚症状がある場合、とりあえず自分でできる対処としては、

  • 水分・塩分の多く摂り過ぎには注意しましょう
  •  昼間(夕方)に運動しましょう
  • 床についている時間が長過ぎないように「遅寝早起き」をしてみましょう
  • 昼寝はするなら30分までの短時間にしましょう
  • 夜あたたかくして寝ましょう
    (夜のトイレの回数が多くて困っておられる方へ:京都医療センター泌尿器科 夜間頻尿外来作成 2017.11改訂版より抜粋)

などが挙げられます。

症状でお困りの時は

まずはかかりつけ医、または近くに泌尿器科を標榜する開業医があれば、受診してください。そこでさらなる専門的な診断・治療が必要と判断されれば、より専門的に対応できる医療機関を専門医を紹介されます。 

前立腺肥大症の治療(薬・手術)は
確立されています

診察・検査によって「前立腺肥大症」と診断されると、治療が始まります。前立腺肥大症の診療アルゴリズム(診断や治療の手順)は確立されており、近年は様々な治療薬やより低侵襲な手術法が開発されてきています。 

治療の第一選択は、お薬での治療となりますが、過度のアルコール摂取を控える、肥満や高血圧など生活習慣病の改善、野菜、穀物を積極的に摂ることや大豆に多く含まれるイソフラボンの摂取など、生活指導を伴うこともあります。お薬にはいくつかの種類があり、患者さんの状態や年齢、過活動膀胱の合併などを見極めながら処方されます。患者さんは副作用についても、あらかじめ主治医から説明を受けておきましょう。 

手術については、ご自分でもすっきり感がないなど、お薬を飲んでいても治らない場合、また、患者さん本人はさほど困っていなくても、残尿が多くなってきた、腎機能障害をきたしているなど、医師が医学的に必要と判断した場合です。冒頭でも申し上げた通り、現在では、開腹手術はほとんど行われておらず、尿道から内視鏡を入れて行う経尿道的内視鏡手術が主流となっています。その中でも、電気メスを使用する手術の他に、近年では出血も少なく入院期間も短くて済む、レーザーを使用する手術法も登場しています。

患者さんへのメッセージ
「トシのせい」にせず、まずは受診してください

写真:奥野 博先生

このサイトなど、まずは情報を集めて、前立腺肥大症の一般的な症状を理解することが大切だと思います。症状のある方は、これらを参考に前立腺肥大症をご自身で疑い、受診のきっかけにしていただきたいですね。

すでに受診されている方も、もし今のお薬で満足していない、変えてみたいと感じたら、遠慮なく主治医に伝えてください。年齢を重ねることは、前立腺肥大症にとって確かにリスクファクター(危険因子)ではありますが、治療は飛躍的に進歩しています。治療をすることでよくなるケースが多いのです。人生を楽しむためにも「トシのせい」で片づけないでいただきたいと思います。

奥野 博先生略歴

愛媛大学医学部医学科卒業。京都大学医学部泌尿器科講師、国立京都病院泌尿器科医長を経て、
2004年より国立病院機構京都医療センタ-泌尿器科科長、2010年には同診療部長に就任。
京都大学および関西医科大学臨床教授。日本泌尿器科学会専門医、京都大学医学博士。

 

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